大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

静岡地方裁判所 昭和51年(行ウ)9号 判決 1977年12月16日

原告 今村高五郎

被告 静岡県警察本部長

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和五一年八月一一日付書面をもつて行つた、原告の普通自動車第一種運転免許の効力を同日より三〇日間停止するとの処分は、これを取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二原告の請求原因

一  原告は、静岡県公安委員会(以下「公安委員会」と略称する。)から普通自動車第一種運転免許(免許証番号第四九六八〇九五八一七〇号)の交付を受け、自動車の運転をしている者である。

二  被告は、昭和五一年八月一一日原告に対して、右運転免許の効力を同日より三〇日間停止する旨の処分(以下「本件処分」という。)を行い、その処分通知書は同日原告に交付された。

三  しかしながら、被告の行つた本件処分は実体上及び手続上違法なものであり、その取消を求める。

第三請求原因に対する被告の認否 請求原因一項及び二項は認め、同三項は争う。

第四抗弁(本件処分の根拠についての被告の主張)

一  原告は、昭和四九年一〇月二九日午前一一時三三分頃、公安委員会が道路標識等によつて最高速度を毎時四〇キロメートルと定めた静岡市池田一五一の一付近道路(以下「本件道路」という。)において、時速六六・六キロメートルの速度で普通自動車を運転した(道路交通法施行令(以下「施行令」と略称する。)別表第一の一の点数六点)。

二  原告は、昭和五〇年一月八日午後二時一〇分頃、公安委員会が道路標識等によつて一時停止すべきことを指定している静岡市呉服町一丁目三番地の九付近道路において、一時停止をしないで普通自動車を運転した(前同表第一の一の点数二点)。

三  原告は、昭和五〇年一月二九日午後九時〇七分頃、公安委員会が道路標識等によつて最高速度を毎時四〇キロメートルと定めた静岡市瀬名川六八八番地の三付近道路において、時速五五キロメートルの速度で普通自動車を運転した(前同表第一の一の点数一点)。

四  被告は、原告の以上三個の違反行為を対象として本件処分を行つたのであり、右三個の違反行為の累積点数は九点になるところ、原告は処分の前歴のない者に該当するので、道路交通法(以下「道交法」と略称する。)第一〇三条第二項・施行令第三八条第一項第二号イに基づき、施行令別表第二の累積点数六点から一四点までの者として本件処分を行つたのである。

第四抗弁に対する原告の認否

一  抗弁一項中、速度が時速六六・六キロメートルであつたことは否認し、その余は認める。

二  同二項及び三項の事実があつたことは認める。

三  同四項中、被告が抗弁一項ないし三項の三個の違反行為を対象として本件処分を行つたこと、原告は処分の前歴のない者に該当し、右三個の違反行為の累積点数は九点になることは認めるが、その余は争う。

第五本件処分の違法事由についての原告の主張

一  公安委員会の速度指定の違法(抗弁一項について)

1  公安委員会は、昭和四九年五月四日道路交通法第四条第一項に基づき、本件道路を最高速度毎時四〇キロメートルとする旨告示した。

2  しかしながら、本件道路は、清水市から静岡市に繋がる車道幅員一三メートル・歩道幅員三メートルの静岡駅南の幹線道路であり、片側双方二車線で前方の見通しがよく東名高速道路・国道一号線と併進しているため、朝夕の一時期を除いては交通量が閑散である。

3  ところで、普通自動車の最高速度は施行令第一一条により毎時六〇キロメートルと定められており、この原則を変更するには道交法第四条第一項の要件が必要であるが、本件道路は道路幅のある見通しのよい場所で、運転者が交通法規に従つた運転をしていれば通常交通事故の発生する場所ではなく、公安委員会が何らの根拠なく一律に最高速度毎時四〇キロメートルと指定したのは取締的見地からしたものであつて、その速度指定自体が道交法第四条第一項に違反するものであり、従つてまた本件処分も違法なものとなる。

二  速度認定の違法(抗弁一項について)

1  交通取締の警察官は、森田式C-一五型速度測定器を用い三〇メートルの定域測定方式により、原告の速度を時速六六・六キロメートルと認定したのであるが、右測定器では五〇メートル・一〇〇メートルの区間をとつても測定でき、また本件道路の状況もそれを容易にしていたのであるから、一〇〇メートルの測定距離にして換算速度を実際の運転速度に近似させるべきであつた。

2  更に、交通取締の警察官は、当日の交通取締に当たり右測定器が正確に作動しているか否かを自バイ等を走行させて検査せず、原告の速度を安易に時速六六・六キロメートルとしたが、右測定自体にプラスマイナス〇・〇二秒の誤差があり、また実際の測定器段階における誤差があることも考えあわせると、時速六六・六キロメートルという数字は科学的根拠のあるものとはいえない。

3  しかるに、被告は右時速六六・六キロメートルという数字を鵜呑にしており、本件処分は違法である。

三  聴聞手続欠缺の違法

1  本件処分をするに当たつて、公安委員会は公開による聴聞を行つていない。確かに、道交法第一〇四条は、運転免許の効力を九〇日以上停止しようとするときは聴聞を行わなければならない建前になつており、それ以下では公安委員会の定めがなければ聴聞を行わなくてもよいことになつている。

2  しかしながら、行政処分をするに当たつては、処分を受ける者の弁明を十分に聞くということが近代国家における原則であり、その趣旨からして聴聞の制度が設けられたのであるから、公開による聴聞を行わなかつたのは明らかに憲法第三一条に違反し、本件処分は取消されるべきである。

四  三個の違反行為を本件処分理由とすることの違法

1  被告が主張する抗弁一項の違反行為は昭和四九年一〇月二九日に発生したもので、施行令別表第一の一により違反点数六点に当たるが、原告は処分の前歴のない者に該当するので、施行令第三八条第一項第二号イ及び別表第二により、抗弁一項の違反行為だけで即時免許の停止事由に該当する。

2  そもそも、数個の違反行為に対して総合して処分が行われるのは、第一番目の違反行為の点数だけでは処分ができないが、第二番目の違反行為の点数と合計すれば処分ができる場合、或いは第一番目と第二番目の違反行為の点数を合計しただけでは処分ができないが、第三番目の違反行為の点数と合計すればできる場合(以下繰返しは同じ)等である筈である。

3  抗弁二項の違反行為(昭和五〇年一月八日)と同三項の違反行為(同月二九日)は、「一年以上の間無事故無違反で経過したとき」に該当し、本件処分のあつた昭和五一年八月一一日の時点では、点数に計算して処分の対象としてはならないものである(原告の昭和五二年二月二五日付準備書面添付一覧表(B)の(4)参照)。

4  本件処分は、抗弁一項ないし三項の三個の違反行為を対象とし、違反点数九点として免許停止三〇日間に処したもので、違法である。

第六本件処分の違法事由に対する被告の反論

一  本件処分の違法事由一項中、同項1及び2(但し交通量が閑散であることは否認)は認めるが、同項3は争う。

1  道交法第二二条は、最高速度の規制を道路標識等によつて行うことを原則とし、道路標識等により最高速度が指定されていない場合に、政令で定める最高速度(普通自動車は時速六〇キロメートル)の適用があるとするものである。

2  道路の最高速度をいくらにするかは、交通量・事故発生率・道路状況等を総合考慮して専門技術的に公安委員会で判断することがらであり、その場合において、スピードが早ければ早いほど事故の発生する率が多くまたその被害も大きくなり、逆に規制を強めて最高速度を時速二〇キロメートル・三〇キロメートルとすると交通渋滞が多くなるので、その両者の調和点として経験則上時速四〇キロメートル規制が採用されることになつたのである。

3  道路交通法第四条により公安委員会が行う交通親制は、国民に対し作為・不作為・受忍等を命ずる警察上の目的のための行政命令ないし行政処分と解され、処分庁は被告の上級行政庁に当たる公安委員会である。本訴においては被告に対する運転免許停止処分の取消が訴訟物とされているが、かかる抗告訴訟においてその先決問題となる速度規制の違法適法ということは、審査の対象外であると解すべきである。なぜならば、先決問題が重大明白な瑕疵により無効と目される場合以外は、権限ある機関により取消されない限り有効なものとして関係機関を拘束する公定力を有するから、速度規制を適法・有効なものとして停止処分の適法性を審査すべきだからである。

二  同二項中、交通取締の警察官が、森田式C-一五型速度測定器を用い三〇メートルの定域測定方式により、原告の速度を時速六六・六メートルと認定したことは認めるが、その余は否認する。原告の速度違反の点については、静岡簡易裁判所で罰金一万五〇〇〇円の有罪判決が言渡され、控訴審・上告審を経て昭和五一年六月四日確定している。

三  同三項中、聴聞の手続を経ていないことは認めるが、本件処分が憲法第三一条に違反するとの点は争う。

四  同四項中、本件処分に抗弁一項ないし三項の三個の違反行為を対象とし、違反点数九点として免許停止三〇日間に処したことは認めるが、その余は争う。

1  原告の昭和四九年一〇月二九日の違反行為は、昭和五一年六月四日刑事事件として有罪が確定したので、それを待つて処分したのであり、昭和四九年一〇月二九日の違反行為につき昭和五一年八月一一日処分したことになるが、違反時と処分時とが一年以内になければならないという処分の時効というような制度はない。

2  本件処分が昭和五一年八月一一日であることから、処分時から一年間以前の事実を処分してはならないという考え方は、法文上全く根拠を欠き理由がない。施行令第三三条の二第二項第一号の趣旨は、違反行為をしないで一年を経過した者には一年以前の違反行為は累積点数として加算しないというもので、常習的違反者かどうかの判定について、違反行為が一年以上経過しているものは無違反奨励のため累積させないという考え方である。

第七証拠<省略>

理由

一  (当事者間で争いのない事実)

原告は、公安委員会から普通自動単第一種運転免許(免許証番号第四九六八〇九五八一七〇号)の交付を受け、自動車の運転をしてきた者であること、原告は、昭和四九年一〇月二九日午前一一時三三分頃、公安委員会が道路標識等によつて最高速度を毎時四〇キロメートルと定めた静岡市池田一五一の一付近の本件道路において、普通自動車を運転したこと、原告は、昭和五〇年一月八日午後二時一〇分頃、公安委員会が道路標識等によつて一時停止すべきことを指定している静岡市呉服町一丁目三番地の九付近道路において、一時停止をしないで普通自動車を運転したこと、原告は、昭和五〇年一月二九日午後九時〇七分頃、公安委員会が道路標識等によつて最高速度を毎時四〇キロメートルと定めた静岡市瀬名川六八八番地の三付近道路において、時速五五キロメートルの速度で普通自動車を運転したこと、被告は、昭和五一年八月一一日原告の抗弁一項ないし三項の三個の違反行為を対象として、原告の運転免許の効力を同日より三〇日間停止する旨の本件処分を行い、その処分通知書は同日原告に交付されたことは、当事者間で争いがない。

二  (原告の本件道路上でのスピードについて)

1  交通取締の警察官が、森田式C-一五型速度測定器を用い三〇メートルの定域測定方式により、原告の本件道路上での速度を時速六六・六キロメートルと認定したことは、当事者間で争いがない。

2  そして、<証拠省略>を総合すれば、原告は、昭和四九年一〇月二九日午前一一時三三分頃、本件道路上を時速六六・六キロメートルの速度で普通自動車を運転したことが認められる。

3  原告は、本件道路上での速度が時速六六・六キロメートルであつたことを否認し、速度測定器自体にプラスマイナス〇・〇二秒の誤差があるうえ、交通取締の警察官は、交通取締に当たり測定器が正確に作動しているか否かを検査せず、しかも測定距離を一〇〇メートルとることが可能であるのに三〇メートルの定域測定方式によつており、時速六六・六キロメートルという数字が科学的根拠のあるものとはいえない旨主張する。

4  しかしながら、<証拠省略>によれば、交通取締の警察官が使用した森田式C-一五型速度測定器は、原告の違反行為のあつた直前である昭和四九年九月二五日頃新品で購入されたもので、工業技術院計量研究所の検査にも合格していること、右測定器自体には測定時間一〇秒についてプラスマイナス〇・〇二秒の誤差があるが、その誤差は測定距離三〇メートルのところを実際には三〇・九六メートルとつたことによつて解消されていること、交通取締の警察官は、当日の取締りに当たり事前に右測定器のテストを行い、機械が正常に作動するかどうか検査していることが認められる。以上の事実に照らせば、時速六六・六キロメートルという数字は科学的根拠のある正確なものであり、原告の主張は理由がないものといわなければならない。

三  (公安委員会の本件道路の速度指定について)

1  公安委員会は、昭和四九年五月四日道交法第四条第一項に基づき、本件道路を最高速度毎時四〇キロメートルとする旨告示したこと、本件道路は、清水市から静岡市に繋がる車道幅員一三メートル・歩道幅員三メートルの静岡駅南の幹線道路であり、片側双方二車線で前方の見通しがよく東名高速道路・国道一号線と併進していることは、当事者間で争いがない。

2  ところで、道交法第二二条は、最高速度の指定は道路標識等によることを原則とし、道路標識等により最高速度が指定されていない場合に、政令で定める最高速度(施行令第一一条第一号により普通自動車は時速六〇キロメートル)の適用があるとするものである。そして、ある道路の最高速度をいくらにするかは、当該道路の交通量・事故発生率・道路状況等を総合考慮して、専門技術的な判断を基礎とする公安委員会の裁量により決定すべきことがらであつて、裁判所が公安委員会の速度指定の判断を違法視しうるのは、その判断が公安委員会に任された裁量権の限界を超える場合に限るものと解すべきである(最高判昭和三三・七・一民集一二・一一・一六一二参照)。

3  これを本件についてみるに、前記当事者間で争いのない事実に、<証拠省略>を総合すれば、本件道路は通称カネボー通りと称し、車道幅員一三メートル・歩道幅員三メートルの前方の見通しのよい道路であること、通称カネボー通りは、東西の長さ五七〇〇メートルの静岡駅南の幹線道路で、南北に通じる大小多数の道路と交差するため多の交差点があり、その西端は東名高速道路静岡インターチエンジと国道一号線とを南北に結ぶ国道一五〇号線に接していること、通称カネボー通りは、平日は東名インターから国道一五〇号線・カネボー通り・長沼交差点を経て国道一号線へ出る車が相当あり、祝祭日は東名インターから国道一五〇号線・カネボー通りを経て野球場・動物園・日本平へと向う車が相当あること、通称カネボー通りでは、昭和四八年一月から一二月までの間に物損事故一〇八件・人身事故七五件(うち死者一名・傷者九八名)が発生し、昭和四九年一月から一二月までの間に物損事故一〇三件・人身事故九五件(うち死者一名・傷者一〇八名)が発生していること、通称カネボー通りは、八幡交差点を起点として、西方が県道静岡環状線・東方が市道南幹線と分れているが、全線が同じ幅員・同じ形態の道路であるため、同一の速度規制を行うことが妥当であること、公安委員会は、以上のような本件道路の交通量・事故発生率・道路状況等を総合考慮して、本件道路の最高速度を時速四〇キロメートルと指定したこと、以上の事実が認められる。

4  右事実によれば、公安委員会が専門技術的な判断に基づき本件道路の最高速度を時速四〇キロメートルと指定した判断が、公安委員会に任された裁量権の限界を超える違法なものであるとは到底解することができない。

四  (聴聞手続の欠缺について)

1  本件処分前に原告に対して公開の聴聞がされなかつたことは、当事者間で争いがないところ、原告は、本件処分前に原告に対して聴聞がされなかつたことから、本件処分は憲法第三一条に違反する違法なものである旨主張する。

2  よつて考察するに、道交法第一〇四条は、運転免許の効力を九〇日以上停止しようとするときは聴聞を行わなければならないが、それ未満の処分では公安委員会の定めがなければ聴聞を行わなくてもよいことになつており、本件処分前に原告に対して公開による聴聞を行わなかつたからといつて、本件処分が道交法第一〇四条第二項に違反しないことは明らかである。

3  ところで、憲法第三一条は、「何人も法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪われ、又はその他の刑罰を科せられない」と規定するところ、同条の適用があるのは主として刑罰を科する刑事司法手続についてであり、それ以外に広く国民の権利・自由を制限する行政処分の手続にも同条の精神を類推適用すべきだとしても、同条の適用があるのは、国民の権利・自由に重大な影響を及ぼす行政処分をする場合に限られるものと解すべきである。これを本件についてみるに、本件処分は三〇日という短期間の運転免許停止処分であり、原告の権利・自由に重大な影響を及ぼす行政処分とまではいえないので、本件処分前に原告に対して公開による聴聞がされなかつたからといつて、本件処分が憲法第三一条に違反するとは解せられない。

五  (三個の違反行為を本件処分理由とすることについて)

1  本件処分は抗弁一項ないし三項の三個の違反行為を対象とし、違反点数九点として免許停止三〇日間に処したことは当事者間で争いのないところ、原告は、抗弁二項の違反行為(昭和五〇年一月八日発生)と同三項の違反行為(同月二九日発生)は、「一年以上の間無事故無違反で経過したとき」に該当し、本件処分のあつた昭和五一年八月一一日の時点では処分の対象としてはならないにも拘らず、被告が抗弁二項及び三項の各違反行為をも処分の対象としており、本件処分は違法である旨主張する。

2  よつて考察するに、前記一の当事者間で争いのない事実に、<証拠省略>及び弁論の全趣旨を総合すれば、被告は、原告が抗弁一項の違反行為に対する道交法違反被告事件について正式裁判の申立をして争つたので、右違反行為による免許停止処分を一時見合わせていたが、右被告事件が昭和五一年六月四日有罪と確定したので、抗弁一項(昭和四九年一〇月二九日発生)・同二項(昭和五〇年一月八日発生)・同三項(同月二九日発生)の各違反行為を対象として、昭和五一年八月一一日本件処分を行つたことが認められる。

3  ところで、施行令第三三条の二及び別表第一・第二が規定する点数計算の方法は、違反行為をした者の違反行為をした日から過去三年以内における前歴の有無により異なり、原告のように過去三年以内に前歴のない者については、過去三年以内における違反行為に付された違反点数を合計するのが原則であるが、前記計算の対象となる違反行為について違反行為をしないで一年を経過した期間があるときは、その期間前における違反行為は点数計算から除外するという特例がある(施行令第三三条の二第二項第一号参照)。これは、違反行為をしないで一年以上経過した者には、一年以前の違反行為は累積点数として加算しないというもので、違反行為が一年以上経過しているものについては、無違反奨励の政策的見地より点数計算の対象から除外するという考え方である。なお、施行令及び別表では、処分は違反行為時から一年以内にしなければならないという、いわば処分の時効の如き制度は設けられていない。

4  これを本件についてみるに、被告は、昭和五〇年一月二九日発生の抗弁三項の違反行為、並びに同日を起算日とする過去三年以内における違反行為である抗弁一項の違反行為(昭和四九年一〇月二九日発生)及び抗弁二項の違反行為(昭和五〇年一月八日発生)、以上三個の違反行為(違反点数合計九点)を対象として昭和五一年八月一一本件処分を行つたのであり、抗弁一項及び二項の違反行為は抗弁三項の違反行為よりも一年以上経過しているものではないうえ、違反行為時と処分時との間が一年以内でなければならないという処分の時効の如き制度はないのであるから、被告が原告の抗弁一項ないし三項の三個の違反行為を対象として本件処分を行つたことについて、何ら違法な点は存しない。

六  (結論)

以上の認定及び判断によれば、原告は施行令別表第二の処分の前歴のない者に該当し、原告の抗弁一項の違反行為は点数六点、同二項の違反行為は点数二点、同三項の違反行為は点数一点に当たるところ(施行令別表第一の一参照)、被告は、道交法第一〇三条第二項、施行令第三八条第一項第二号イに基づき、原告の抗弁一項ないし三項の三個の違反行為(累積点数九点)を対象として本件処分を行つたものであつて、本件処分は実体上及び手続上適法なものであることが認められ、原告の被告に対する本件処分取消請求は理由ないものでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条・民事訴訟法第八九条を適用のうえ、主文のとおり判決する。

(裁判官 松岡登 入見泰碩 紙浦健二)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例